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■ 池田健一エッセー ■


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■ 作者プロフィール ■

  
      池田健一
   (いけだけんいち)

昭和25年長崎生まれ。大学卒業後、いすゞ系会社の特装車両を手掛け、その後整備士、板金などの職歴を経て、現在長崎でキャンピングカー製作を手掛ける。ウッドを多用したナチュラルな内装を特徴としたフィールドシリーズが評判となる。趣味はスキンダイビング、トランペット、リズム&ブルースなど。文明批評と豊かな詩情を織りまぜた独特のエッセイを自作のホームページに掲載して、アクセスユーザーからの注目を集めている。

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Outdoorエッセー「答えは風の中」 池田健一(カスタムプロ ホワイト)

● vol.020 スローライフの真髄に触れるキャンプ場

私の住む長崎県の東彼杵町に、公営としてはまだ類例のないドッグランコート付きオートキャンプ場「いこいの広場」がリニューアル・オープンします。天然芝のフラットコートと、林間の傾斜地を組み合わせたロケーション重視のフィールドになる予定です。

なぜ、私がその宣伝に努めるかというと、実はこの企画に私も携わらせてもらったからです。

「犬を媒介に、人間が自然に寄り添っていく」

それがこのキャンプ場のコンセプトなのですが、このテーマは、私自身が長年このキャンプ場で愛犬と一緒に遊ぶことを繰り返すなかで、培ってきたものでした。

犬は、「人間の文化」と「自然」との間をつなぐ架け橋です。彼らは自然界に棲んでいた動物でありながら、4千年もの長きにわたって人類との交友関係を続けてきました。いわば自然界のルールを知りながら、人間の心にも精通している動物です。

逆にいうと、犬の気持ちに寄り添っていけば、人間の文明社会に欠けている自然の摂理を身につけるヒントも得られます。

そんな気持ちで、ドッグランコートを提唱したのですが、当初はなかなか関係者の理解を得られませんでした。

「なんですかそれ? お犬様を大切にもてなすための施設ですって? 将軍綱吉の時代じゃないんですよ、今は…」

最初はそういわれて、なかなか取り合ってもらえませんでした。

しかし、コートの中で犬と遊ぶのは人間です。それを見つめるギャラリーもまた人間です。

「犬が喜べば、人間は犬からたくさんのメッセージをもらうことになるんです。そうなれば、人間もさらに豊かになります」

何度かそう繰り返しているうちに、やがてこのテーマの面白さに気づいてくれたスタッフたちが現れ、その人たちが強力な推進力を発揮することによって、この企画はどんどん進行していきました。そして、最終的には、町の議会において満場一致で可決されました。

このキャンプ場の新企画として、もうひとつ提唱したものは、太古の昔から人を惹きつけてやまない「焚き火」を楽しめるようにしたことです。具体的には、市販の金属製焚き火台などを使わなくても、大地にインパクトを与えずに焚き火を楽しめる天然炉を用意するというものです。これも、私自身が焚き火が大好きだったために実現した企画でした。

焚き火は、私に様々なことを教えてくれました。炎に手をかざしながら、木のはぜる音を聞いたり、その焼ける匂いを嗅いでいると、火を手に入れた太古の人間の気持ちがなんだか分かってくるのです。

大昔の人類は、火を手に入れることによって、はじめて「文明社会」へ至る道を発見しました。だから、人類のDNAには、この火に対する畏敬の念がいまだに絶えることなく受け継がれています。

「いこいの広場」に来たら、一度は焚き火を楽しんでください。特にご家族にお勧めです。お父さんがガスや電気に頼らず、マキや炭によって熾した天然の炎は、それを初めて見つめた子供たちの心に、きっと新鮮な感動を湧き起こすはずです。

天然の炎を見つめることは、また、我々がガスや電気という「文明」を手に入れたことによって獲得したものと、失ってしまったものを同時に思い起こさせてくれます。

昔…別に、人類が火を手に入れた太古の昔までさかのぼらなくても結構です。年輩の方は、まだ都市ガスや水道設備が十分整っていない高度成長期前の風景を思い出してみてください。

何かが変わっていませんか?

麦わら帽子をかぶり、海辺で真っ黒に焼けた身体をさらしていた、あの少年たちは、今どこへ行ったのでしょう。

彼らは今、消毒剤の入った長方形のプールに入れられ、体育の成績を上げるためのタイムを競い合っています。

ほこりの舞い上がる空き地で、鬼ごっこの主役を務めていたガキ大将たちは、どこへ消えたのでしょう。

彼らは今、コンクリートで固められたグランドの上に立ち、そこに描かれた白線からはみ出すことも許されず、鬼もいなければ逃げる子もいないランニングで、そのタイムを争っています。

わずか半世紀ばかりの間に、日本の風土と日本人はずいぶん変わってしまったようです。

日本の繁栄が世界に認め始められた頃から、日本人は、誰もがひとつの定められた目標に向かってヨーイドンとスタートを切り、全員が同じゴールを目指して突っ走るようになりました。最も早くたどり着いた者が勝ち組。それ以外は負け組。

つまり生活レベルの向上と引き替えに、私たちはゆっくり考えるヒマもなく、あわただしい競争社会のなかで、我を忘れて走り続けていたようです。

でも、そんな社会の行き詰まりが、今あちらこちらで囁かれています。

そもそもタイムを測ったり、長さや高さを競い合ったりすることにどれだけ意味があるのでしょう。秋の空がどれだけ青ければ、人間は美しいと感じるのでしょうか。潮騒の響きが何デシベルに達したとき、それが心地よく感じられるのでしょうか。

そんなものは数値では表せません。同じように、人間が他人に対して示す優しさに“度数”や“曲率”があるのでしょうか。人間が素晴らしい音楽や文学に接したとき、その興奮度はパーセンテージで示されるのでしょうか。そんなことは不可能です。

今しきりに提唱されている「スローライフ」とは、すなわち腕時計を身体から外し、壁に貼ったカレンダーを剥がし、いろいろな約束事やスケジュールに拘束されない自由な人生をイメージしてごらん、という呼びかけにほかなりません。つまり、無我夢中でタイムを競い合う社会のなかで見過ごされていたものを再発見してみようということです。

スローライフはすぐ手に入ります。

たとえば、人間の言葉を話さないはずの犬と丸一日向かい合って、ゆっくり語りかけてみるのはどうでしょう。焚き火が燃え尽きるまで、そのそばにいて、何も考えずに炎だけを見つめるのはいかがですか。

朝から夕方まで、ロッキンチェアで身体を揺らしながら、流れゆく雲と沈む夕陽を見つめ続けるなんてのもお勧めです。

やってみてください。

きっと、何かの発見があるはずです。

一見「時間の無駄」と思えるような意味のない行為にこそ、実は、豊かなものが潜んでいます。その豊かさというのは、もしかしたら、遠い過去に置き忘れてきたものかもしれません。それを取り戻したときが、すなわちあなたのスローライフが実現された瞬間です。

長崎県・東彼杵町にできる「いこいの広場」は、スローライフを満喫できるキャンプ場です。

ここに来て、長い間忘れていた何かを思い出し、そして、輝いていたあの時代に戻ってみませんか。