TOPへ戻る

■ 池田健一エッセー ■


vol.001 vol.002 vol.003
vol.004 vol.005 vol.006
vol.007 vol.008 vol.009
vol.010 vol.011 vol.012
vol.013 vol.014 vol.015
vol.016 vol.017 vol.018
vol.019 vol.020 vol.021
vol.022 vol.023 vol.024
vol.025 vol.026 vol.027
vol.028 vol.029 vol.030
vol.031 vol.032 vol.033
vol.034 vol.035 vol.036
vol.037 vol.038 vol.039
vol.040 vol.041 vol.042
vol.043 vol.044

■ 作者プロフィール ■

  
      池田健一
   (いけだけんいち)

昭和25年長崎生まれ。大学卒業後、いすゞ系会社の特装車両を手掛け、その後整備士、板金などの職歴を経て、現在長崎でキャンピングカー製作を手掛ける。ウッドを多用したナチュラルな内装を特徴としたフィールドシリーズが評判となる。趣味はスキンダイビング、トランペット、リズム&ブルースなど。文明批評と豊かな詩情を織りまぜた独特のエッセイを自作のホームページに掲載して、アクセスユーザーからの注目を集めている。

新企画開始!

町田編集長のblogを開始しました。
   【町田の独り言へ】

名車発見

スタンダードとなった名車を紹介するコーナーが始まります。長い間、売れ続けるキャンピングカーの魅力を探ります。
    【名車発見へ】

メールマガジン発行中

更新情報その他の情報を適時お送りするメールマガジン「CARVO」発行中。購読無料!!お申し込みは
   【申し込みページ】

ショップ&ビルダー
リスト

ショップを調べたくなったらこのリスト。所在地・電話番号・ホームページの情報を掲載しています。
    【リストページ】

Outdoorエッセー「答えは風の中」 池田健一(カスタムプロ ホワイト)

● vol.031 ドッグカフェにはブルースを

《こんな凄いブルースを演じるのが日本人だって?》



もう20年ぐらい前のことです。
 何気なくテレビを見ていると、トヨタ・ブリザードのCMが始まり、ものすごく味のあるブルースがブリザードの背後から流れてきたことがありました。
 そのインパクトの強さに圧倒されて、私は「さすが本場アメリカのブルースシンガーは違う!」と感動。
 さっそくテレビ局に問い合わせて、「CMで演奏している黒人ミュージシャンは誰ですか?」と尋ねたことがことがあります。

 すると意外な答。
 「歌っているのは、日本人の大木トオルさんです」というのです。
 「ウ〜ン…」と私は絶句。
 その声質、歌唱力、演奏テクニック。すべてが日本人離れしていたからです。
 「ならば、これからすぐに、そのCDを!」
 私が、急いでレコードショップに飛んでいったのは、言うまでもありません。

それから、しばらくは“大木トオル漬け”。
 大木さんの演奏するブルースを何度も聴いているうちに、彼が本場アメリカのブルースシンガーたちに負けないどころか、大木トオルだけの主張があるようにも感じられ、「日本人のブルース」というものが誕生したんだなぁ…などという感慨に耽ったものでした。

 しかし、それから20年。
 私の生活も大きく変わり、あの頃熱狂した彼のCDも、今はどこへやら。
 いつの間にか大木トオルの名前も、記憶の底に眠り続ける日々が過ぎていきました。

《奇妙な魅力の髭ヅラオヤジ》


 今年の10月14日。
 NHKの「課外授業ようこそ先輩」という番組で、黒いスーツに白いシャツを着た妙なオヤジが、小学生たちに話しかけている映像を見かけました。
 メガネをかけた髭ヅラ男で、一目でサラリーマンでないことは分かるのですが、はて? 先生でもなし、タレントでもなし…。

 しかし、その男がとても不思議な魅力を漂わせていたために、私は仕事の手を休めて、ついついテレビに見とれてしまいました。

 画面のなかで、どうやら彼は、子供たちに自分の生い立ちをしゃべっているらしいのです。
 「12歳のときに一家離散を経験し、1人で生き抜くことを決意。やがて吃音を克服するために英語の歌を勉強。音楽活動を目指してアメリカに渡ったのだが、イエローが英語の歌だって? という冷たい視線にさらされブーイングの嵐…」

 どうやら過酷な運命にさらされた人のようです。
 しかし、その髭ヅラ男は「ブルースをあきらめなかった」とか。
 「ブルースはもともとアメリカで人種差別の悲劇を味わった黒人たちの音楽だ。それは辛いことを乗り越えるための応援歌だ」

 彼はそう信じて、心がくじけそうになった時は、いつもブルースを口ずさんで耐えていたというのです。

 そう言いながら、彼は子供たちの前で即興でブルースを歌い出しました。
 子供たちの表情が変わり、歌を真剣に聞き入るような態度になっていったことが、画面を通じてビンビンと伝わってきます。

 もちろん、その頃になれば、私にもこの「髭ヅラオヤジ」が誰であるか分かっていました。
 そう、20年ぶりに“再開”した大木トオルは一段と大きく成長し、歌の奥行きもさらに深くなり、渋い迫力を秘めた声には、優しい温かさも加わっていました。

 彼はアメリカに永住権を得て音楽活動を続けるうちに、やがて「Mr.Yellow Blues」と親しまれるようになり、ブルースが人種を超えて広がることを実証した人間として、大いに評価されるようになります。
 1999年には、ベン・E・キング、エルビン・ビショップといったブルース界のスーパースターたちと日本で共演し、見事凱旋帰国を飾りました。

 この年にリリースされたシングルCDの「スイートソウルミュージック」は、彼の代表的ヒット作のひとつとなります。
 一説によると、アメリカでアルバムデビューを果たした日本人ポップミュージシャンのなかで、アメリカ人に本当に評価されているのは、坂本九の「スキヤキ」と大木トオルのブルースだけだという話もあるようです。


《動物愛護家としての、もう一つの側面》
 大木トオルさんの名をアメリカで有名にしているもうひとつ活動は、セラピードッグの普及です。
 セラピードッグというのは、いわばお年寄りや病気の人、引きこもりや自閉症の人々に「愛と生きる力」を与える犬のこと。
 盲導犬や介助犬の仲間なのですが、身障者の手足となって生活を助ける盲導犬などとは少し異なり、「心の助け」に重きを置いた犬たちのことです。

大木さんは20年前、年に何十万頭の野犬や捨て犬がガス室送りになる現状を知り、自分の私財を投じて、捨て犬たちを保護するための犬の訓練センターを設立しました。
 そこで犬たちをセラピー犬として訓練し、今では50頭のセラピー犬がそのセンターから送り出されたそうです。
 長い間、人種差別に耐えてきた黒人たちの音楽であるブルースへの共感と、無用の生き物として葬られてきた捨て犬への愛情が、きっと大木さんの心のなかで融合したのでしょう。

 「国際セラピードッグ協会」の代表として、彼は多くの障害施設や老人施設にセラピードッグとともに訪れ、ブルースで聴衆者に元気を与え続けています。
 最新作の「アイコンタクト〜愛犬チロリへ捧ぐ」という曲は、彼がセラピードッグの育成を思いつくきっかけとなった愛犬チロリへの、感謝と追悼の意味を込めてつくった歌。
 いわば、ブルースと動物愛護という二つのテーマが結実した歌といえましょう。

《ドッグカフェにはブルースを》

  現在、私はキャンピングカー造りだけでなく、キャンプ場の運営にも力を注いでいます。
 いま取りかかっているのは、キャンプ場のティールーム。仲間たちと一緒になって管理室の一部を改装し、人と犬が同じ空間でくつろげるドッグカフェを造っているところです。
 店の名前は「ほっとひと息 HOT PLАCE」

 店内には、私の好みのミュージックも時々そおっと流してみたいと思っています。
 もちろん大木トオルさんの「スイートソウルミュージック」や「アイコンタクト〜名犬チロリに捧ぐ」も、さりげなくバックミュージックに使うつもりです。

 11月にカフェがオープンするまで、いろんな壁も乗り越えなければいけませんが、大木トオルさんの、「思いっきり泣いて、立ち上がれ」というメッセージを心に秘めながら、仲間と一緒にワイワイガヤガヤと進めています。