TOPへ戻る

■ 池田健一エッセー ■


vol.001 vol.002 vol.003
vol.004 vol.005 vol.006
vol.007 vol.008 vol.009
vol.010 vol.011 vol.012
vol.013 vol.014 vol.015
vol.016 vol.017 vol.018
vol.019 vol.020 vol.021
vol.022 vol.023 vol.024
vol.025 vol.026 vol.027
vol.028 vol.029 vol.030
vol.031 vol.032 vol.033
vol.034 vol.035 vol.036

■ 作者プロフィール ■

  
      池田健一
   (いけだけんいち)

昭和25年長崎生まれ。大学卒業後、いすゞ系会社の特装車両を手掛け、その後整備士、板金などの職歴を経て、現在長崎でキャンピングカー製作を手掛ける。ウッドを多用したナチュラルな内装を特徴としたフィールドシリーズが評判となる。趣味はスキンダイビング、トランペット、リズム&ブルースなど。文明批評と豊かな詩情を織りまぜた独特のエッセイを自作のホームページに掲載して、アクセスユーザーからの注目を集めている。

新企画開始!

町田編集長のblogを開始しました。
   【町田の独り言へ】

名車発見

スタンダードとなった名車を紹介するコーナーが始まります。長い間、売れ続けるキャンピングカーの魅力を探ります。
    【名車発見へ】

メールマガジン発行中

更新情報その他の情報を適時お送りするメールマガジン「CARVO」発行中。購読無料!!お申し込みは
   【申し込みページ】

ショップ&ビルダー
リスト

ショップを調べたくなったらこのリスト。所在地・電話番号・ホームページの情報を掲載しています。
    【リストページ】

Outdoorエッセー「答えは風の中」 池田健一(カスタムプロ ホワイト)

● vol.035 池田流アウトドアフード学

 

 「娘さんよく聞けよ、山男にゃホレるなよ。山で吹かれりゃよ、若ゴケ(未亡人)さんだよ」
 …ご存知ですか?
 山男の歌です。

 若い頃の私は、この歌詞を逆に解釈し、つまり山男になれば、娘さんがホレてくれるということなんだな。…と、私なりの論法を組み立てたました。

 山に登っていればきっと素晴らしい娘さんに会える!
 そう信じて、ほとんどいつも一人旅。

 当時、カッコいいとされたのは、単独行。
 孤高の修験者のように、黙々と頂上を目指していれば、そういう私の姿に感銘してくれる娘さんが、きっと声をかけてくれるはずだ。

そう思いつつ、10代の終わり頃から20代にかけて、ひたすら山登りを繰り返してきたのですが、結局35歳になるまで、「娘さん」に言い寄られることはありませんでした。

 しかし、山にハマったおかげで、アウトドアに対する智恵がずいぶん身に付きました。
 特に食材に関しては、「池田流アウトドアフード学」を披露することができます。
 エッヘン!

 登山は、何日も山野をさまようわけですから、食事がとても大切です。
 その食材に関しても、軽量で、調理の効率がよく、何よりもおいしいということが大事です。
 日本人の主食は米。だから、米さえあれば、どんなおかずでも日本人は満足することができます。
 しかし、米は重いし、研ぐ必要があるので、単独登山には向きません。

 そこで考えたのが、マカロニ。
 そう閃いたときには、「やったぁ!」と思ったものでしたが、なんのことはない。
 当時、イタリア製西部劇のマカロニウェスタンが流行っていたり、TV番組「太陽にほえろ」に出てくる若い刑事の名前がマカロニデカだったり…。
 巷に、あまりにも「マカロニ」という言葉が溢れすぎていたため、それが頭に刷り込まれていただけでした。
 青春は、いつも思いつきで、突っ走ります。

 マカロニは、米と比べ、研ぐ・洗うというプロセスを必要としません。
 中が空洞なので、熱が伝わりやすく、小量の水さえあれば調理できます。
 マヨネーズあえ、ふりかけ仕上げ、シンプルな塩味。
 どんな味付けでも、それなりに、ひっそり連れ添う世話女房のように、ささやかなディナーの盛り立て役を務めてくれます。

 そんなこともあって、私はずいぶんマカロニさんのお世話になりました。
 独りで山に登り、マカロニ食って、また山へ。
 そんな男にはドラマチックな恋も、スイートな夢も、遠い世界の話。

 でも、おかげでマカロニは、私にとって、ちょっぴりスィートで、ちょっぴりビターな「青春の味」になりました。


 私のフィールドは、歳とともに、ハードな単独登山から軟弱な(?)オートキャンプに変わりました。
 それと同時に、アウトドアフードに対する肩入れも、マカロニからうどんに変わりました。
 お勧めは、「五島うどん」。
 マカロニと同じように軽くて、調理も簡単。そして保存性が高いことが特徴です。クルマの中に、ポンと放り入れておけば、いつでも食べたいときに好きな量だけ食べられます。
 普通のうどんの場合は、うっかり炊き過ぎるとふにゃっふにゃになってしまうのですが、この五島うどんは、ゆで過ぎてものびないし、コシがなくなりません。
 その秘訣は、五島名産「つばき油」がたっぷりと入っているからです。
 緊急時の保存食のようなクセして、おいしい! そしてヘルシー!
 アウトドアフードの王様です。

え? 「五島うどん」をご存じない?

 長崎県の五島列島の名産品です!

 ずっと以前に、民放テレビ番組の番組で紹介されたこともあります。
 「全国のおいしいうどんのチャンピン」を決める番組でしたが、そこで五島うどんは全国の第2位。
 ちなみに1位から5位までの他のうどんは、すべて生麺。
 「五島うどん」だけが乾麺でした。
 だから、保存が利くわけですね。

 では、この五島うどん。どうやったらおいしく調理できるか。
 そっとあなたに教えます。

 ヒントは、つゆが決め手です。
 五島の近海で捕れる「飛び魚」という魚があります。地元では、これを「アゴ」と呼んでいます。

 このアゴで出汁を採った辛口のつゆが、五島うどんには欠かせないのです。
 アゴ出汁には、ビン入りも、粉末もあります。クルマに保存しておくには粉末がいいでしょう。
 さらに、ネギとショウガ、カマボコ。
 こういう具が揃っていれば、味がもっと引き立ちます。
 これからの季節なら、熱湯たっぷりの中に放り投げて、アツアツで食する地獄炊きがお勧め。もちろん、かけうどんや、つけめんもOK。
 温めても冷やしてもおいしい「オールシーズン・オールマイティフード」です。

 五島うどんは全国のデパートでも売られています。ネット購入も可能です。
 ちなみに、私は五島うどんさんから、宣伝料はいっさいもらっていません。
 単なるファンです。

 これからはオートキャンプのシーズン。
 秋も本格的になり、暑さもなく、寒さもなく、一番のキャンプシーズンに入ります。

 地には焚き火の光。
 天には星空の明かり。
 アーシィな音楽をバックグランドミュージックに、「うどん三昧」の夜はいかがでしょう。

 カントリー、リズム&ブルース、ロックンロール、時にはちょっぴり気取ったメロウなジャズ。
 アゴ出汁を使った「和文化」の五島うどんを舌で味わい、スィートでバタ臭い「洋楽」を耳で楽しむ。

 辛口・甘口・和・洋が入り交じったミスマッチなコラボレーション。
 しかし、それが絶妙のアンサンブルに変わるところが、キャンプの面白さです。


【町田の解説】

 今回の連載エッセイは、「食」に対する考察です。
 マカロニとうどん。
 どちらも、日本人なら日常生活の中に溶け込み過ぎて、ほとんど注意もされないような食材です。
 作り方もいたってシンプル。「料理」とも呼べない食べ物です。

 なのに、そのそっけない食べ物が、池田さんの手にかかると、料理の達人が奥義を極めて創り出す料理のように、とても奥の深いものに変わるから不思議。
 高価な食材と一流のシェフばかり採り上げる世の中のグルメブームが、突然、底の浅いものに思えてしまいます。

 「食」に対するイメージをがらっと変えるような、この池田マジックはどこから生まれてくるのでしょう。

 答えは「風の中」

 …というエッセイのタイトルどおり、風が吹き渡る場所、つまりアウトドアの現場から生まれてきます。

 池田さんのエッセイは、その中心テーマが何であれ、常に「野外」と結びついているところに特徴があります。

 大自然を背負ったとき、人間の身体からは、「文化」のプロテクターが少しずつはぎ落とされ、五感が自然の波長にダイアルを合わせるようになります。
 そのとき、細胞組織が生まれ変わるように、舌の感覚も変わります。
 「文化の味」と「自然の味」の違いが、分かるようになってきます。

 生産効率を優先してつくられた「文化の味」は、複雑に見せかけても奥行きが浅く、「自然の味」は、シンプルながら、奥行きの深さを秘めています。
 ちょうど、化学調味料と天然出汁のようなものです。

 今回の「池田流アウトドアフード学」は、そこのところを突いたエッセイです。それはまた、人間にキャンプやキャンピングカーの素晴らしさを伝える物語にもなっています。