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■ 池田健一エッセー ■


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■ 作者プロフィール ■

  
      池田健一
   (いけだけんいち)

昭和25年長崎生まれ。大学卒業後、いすゞ系会社の特装車両を手掛け、その後整備士、板金などの職歴を経て、現在長崎でキャンピングカー製作を手掛ける。ウッドを多用したナチュラルな内装を特徴としたフィールドシリーズが評判となる。趣味はスキンダイビング、トランペット、リズム&ブルースなど。文明批評と豊かな詩情を織りまぜた独特のエッセイを自作のホームページに掲載して、アクセスユーザーからの注目を集めている。

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Outdoorエッセー「答えは風の中」 池田健一(カスタムプロ ホワイト)

● vol.036 焚き火と過ごす豊かな時間

 

 毎年、夏休みが近づくと、
 「さぁキャンプだ!」
 「アウトドアへ繰り出そう!」
 「野外でダッチオーブン料理を楽しもう!」
 と、テレビや雑誌などのメディアがいっせいにあおり立てます。

 それにつられ、
 「暑い」
 「人が多い」
 「虫に刺される」
 という過酷な3大条件をものともせず、日本のキャンプファンは修行僧のごとくキャンプ場へ。

 70年代、日本をオイルショックが襲った時、人々はトイレットペーパー買い求めてスーパーに殺到し、激しい争奪戦を繰り広げました。
 夏にキャンプ場に殺到する人々の“群”を見ると、いつもその時のシーンとダブリます。

 なぜ、日本人はそうなのか?

 もう何年もの間、考えても考えても、その理由がずーっと分かりませんでした。
 きっと、「人がやっているから、私も!」という付和雷同型の国民性が、そうさせるのでしょう。

 しかし、最近そういう傾向が少しずつ変わっているようです。
 何がなんでも、夏休みには「タープの下で家族がバーベキュー」というキャンプスタイルに変化が起こり、夏よりも、春や秋。そして寒い冬。
 とにかく1年を通じて、
 「風を楽しむ」
 「ゆったりした時間を楽しむ」
 「ロケーションを楽しむ」
 という“スローキャンプ”を味わうアウトドアマンが増えてきているとか。
 『オートキャンプ白書2007』などを読むと、そのような日本人の変化が読みとれます。

 時代が変わり、経済優先の思想に陰りが見えてきて、
 「とにかく急いで」
 「ムダをなくして」
 「効率的に」
 という発想に疑問を感じる人が増えてきたのかもしれません。

 そして、四季の折々の美しさを歌に詠んだ古代人のように、現代人もまた、季節の変わり目を楽しむゆとりを取り戻してきたのかもしれません。


 今の季節、少し肌寒い風ながら、そこには「そよ風」の匂いがまだ残っています。
 ちょっと軽いジャンパーでもはおって、フィールドへ繰り出してみませんか。

 夏の暑さは、裸になっても防ぎようがありませんが、秋の寒さや冬の冷たさは、手軽な価格で手に入るウェアを重ねるだけで、シャットアウトできます。
 そうすれば、頬をかすめる冷たい風も、花の匂いを伝える春の微風に変わるはず。
 四季の中でもいちばん心地よい季節を、この「そよ風」が与えてくれることでしょう。

 そろそろ修行僧を演じる夏のキャンプから、卒業してみませんか。
 そして、宵の深まりとともに、温かさを増していく焚き火の炎を眺めながら、とりとめもない、たわいもない時間を過ごしてみませんか。

 何もしなくていいのです。
 ただ、焚き火の炎を見つめていれば…。

 豊かな「無駄」。

 それがどんなに大切なものであるか。
 きっと、焚き火の炎が教えてくれるでしょう。



【町田の解説】

 化石燃料を中心としたエネルギー枯渇の危機。CO2の増加による地球温暖化の不安。
 私たち人類の住む地球は、今とても疲弊しています。
 もしかしたら、人類の文化は「折り返し地点」を迎えているのかもしれません。

 経済優先、効率優先を掲げた市場原理主義は、経済を活性化させることには大いに貢献しましたが、その行き過ぎは、社会と人間に疲労をもたらせました。
 このような市場原理主義社会を推進してきたグローバリズムは、誰かが勇気ある調整をしていかないと、次は地球に疲労をもたらせるかもしれません。

 そうなる前に私たちもまた、生活の見直しが求められているような気がします。

 経済発展が、人類を幸せにしてくれたのは20世紀までの話。
 今は、経済発展の力を借りなくても、人間の「幸せ」を見つける文化が求められる時代といえましょう。

 焚き火の炎を眺めながら、「豊かな無駄」を楽しむ。

 池田さんが書かれている「焚き火を見つめるキャンプ」というのは、経済発展の力を借りなくても人間が幸せを見つける方法を示すヒントになっています。

 自分の気持ち一つで、冬の木枯らしを「春のそよ風」に変える力のある人は、焚き火を見つめるだけで、万葉の時代を生きた古代人の美意識を取り戻すことができます。
 そのときに、エアコンやストーブがなくても暮らしていた古代人の逞しさを知り、彼らが見つめていた空の青さ、緑の濃さ、闇の暗さを美しいものと感じる感受性が芽生えるかもしれません。

 テレビや雑誌などのメディアがもたらす娯楽よりも、焚き火がつぶやく独り言の方が、はるかに雄大なロマンを秘めている。
 そんなことを、このエッセイは教えてくれるような気がします。