編集長町田厚成の今日もバンクで独り寝
● vol.003 窮地に陥って自然の美しさを知る
輸入モーターホームや大型キャブコンで、狭い山道を登って行ったあげく行き止まりに遭遇し、Uターンするスペースもない場所で途方に暮れるという経験を持った人は多いのだろうか、少ないのだろうか。自分の場合はこれが圧倒的に多い。事前調査が不十分と言われればそれまでだが、カーナビでは通れるはずの道が「落石による通行止め」などになっていた時は不運を嘆くしかない。Uターンできる場所までバックアイを頼りに延々100mもバックするなどということも何度あったことか。それにしても、あの「道がだんだん細くなっていく」時の感覚は嫌なものだ。順調に走っていた舗装路が突然ダートになり、やがて軽自動車でも通れるか…という怪しげな“けもの道”になり、慌てて地図を拡げる頃には、間違ったと分かってもどうしようもないほど来てしまった場合、本当にクルマを置いたまま徒歩で逃げ出したくなる。
泣きたくなるのは、そういう状況でアクシデントに見舞われることだ。ある富山県のキャンプ場を取材に行く途中、クルマ1台通るのがやっとという細い峠道を延々と走ることになった。「どうも変だ…」と思って地図を確かめてみると、案の定間違っている。厳密な間違いではないのだが、もっと簡単にアプローチできたはずのメイン道路を避け、わざわざ困難な山越えルートをたどってしまったらしい。そのときは、なまじUターンできそうな広い場所が出てきたのがまずかった。何度か切り返しを繰り返せば、Uターンできるかもしれない。そう思って切り返しを始めた。片側はガードレールもない断崖絶壁。その崖下の景色が切り返しごとにフゥっと近づいてくる。それを覗き込むだけで冷や汗が浮かんでくる。
その時ガタンという音とともに、突如クルマが金縛り状態になってしまった。降りて確かめてみると、なんと左の前輪が側溝にすっぽりはまり込んでいる。崖側ばかりに気を取られ、反対側に注意する余裕を失っていたらしい。泣きっ面に蜂とはこのことだ。急いでジャッキをかまし、前輪の掘り出しにかかった。ところが車載のパンタグラフジャッキはノーマル状態のベース車に付いてきたものだから、重量のあるキャンピングカーを想定したつくりになっていない。タイヤが上がりかけたと喜んだ瞬間、クランクがローソクでも捻るかのように折れてしまったのである。
万事休す。どうするか…。まずは、この道を通るクルマに迷惑がかかることを心配した。しかしそれはやがて取り越し苦労であることが分かった。クルマなど来ないのである。地元の人ですら、忘れてしまったような道らしい。…ということは待っていても助けが来るわけもない。当時普及し始めていた携帯電話なるものを、この頃はまだ持ち合わせていない。 とにかく煙草でも吸うか…。地べたにそのまま座り込んでマイルドセブンライトを取り出す。紫煙が青い空を背景にたなびく。こういう時に限って周囲の風景が驚くほど美しい。遠くの山々の輪郭がくっきりと浮かび上がり眺望は最高。のどかに鳥が鳴いて、まさにピクニック日和という午後だ。状況は悲惨なのだが、環境は実にハッピーなのである。地べたに背中をつけて、寝たまま空を見上げる。このまま昼寝したらさぞや気持ちいいだろう…などと感じつつ、心はどうするか思案を続ける。妙案は浮かばなかったが、とにかく車体の下に潜り込み、スパナで鍵を締め付けながらジャッキを回してみた。すると少しずつだが、車体が上がっていくではないか。結局、この超低効率の作業を延々繰り返すことによって最後は事なきを得たのだが、以降は常にダルマジャッキを車載することにした。それにしても、ジャッキが折れるなどという経験も初めてだったので、改めてキャンピングカーというものをもっと知らなければいかんな…と思った次第である。
