編集長町田厚成の今日もバンクで独り寝
● vol.005 居酒屋アクシデント
キャンピングカーの旅の面白さは、ホテルも旅館もないような小さな町にも泊まれることだろう。ホテルはなくても、たいてい駐車場はある。場合によっては道の駅のような便利なものもある。普通の乗用車の旅なら素通りしてしまうような小さな町に泊まるところにキャンピングカーの旅の醍醐味がある。駐車場を確保したら、次は居酒屋探しだ。もともと見知らぬ町の、見知らぬ人々のいる(ちょっとひなびた)居酒屋に入るのが好きなたちだから、地元の人々が集まって地元の方言丸出しで陽気に騒いでいるような中に入るとうれしくなる。最初は、うまそうなツマミを頼んで、ひっそりと酒を飲む。しかし耳だけは全神経を集中して隣の会話などをチェックしている。その中で話題に入っていけそうなテーマが出たときに、突如図々しく会話に参加する。このへんは要領だが、見知らぬ男が突然会話に入ってくれば相手だって不愉快に思うだろうし、警戒もするだろう。だけどコツがある。「実は、東京の出版社から派遣されてきたカメラマンですが、地元の××山(△△川でもいい)を撮影に来たのですが…」。これでよろしい。まったくのウソではない。取材のテーマはキャンプ場やらキャンピングカーの販売店だったりするわけだが、周辺情報も取材しておけば役に立つわけだから的外れの嘘というわけではない。
「地元の××山…の撮影」という一言で、たいていの場合仲間の話題が一気にそれで盛り上がる。「××山ならどこから撮るのがいいだろう?」「△△からの景色が一番だ」「いや◇◇に出れば、ついでに◎◎も見られる」…こんな調子で、観光本などでは紹介されていないその土地ならではの隠れた名所、グルメ、遊びの情報が一気に手に入るという寸法だ。
まぁ見知らぬ土地で、見知らぬ居酒屋に入るのだから、多少のリスクは覚悟しなければならない。たまたま隣りにいた男が角刈り頭で鋭い目つきの、凄むと怖そうに思える人だったりすることもある。そういう時に限って、向こうから話しかけてくる。「あんた、こんな何もない町に何を取材にきたんね?」。柔和なしゃべり方の奥にドスの利いた響きがあって、答え方いかんによっては許さんぞ的な迫力もある。「いやいやここはなかなか風光明媚な町で、特にこの奥にある××キャンプ場は、結構マスコミでも評判になりつつあって…」。こっちも適当に酔っぱらっているから、そのへんは調子よく合わせてしまう。すると相手も退屈ざましに丁度いい相手が来たと思ったのか、「ママさんこっちのお客さんにお銚子一本出してやって…」という感じで、だんだん意気投合してくる。もともとローカルな場所でローカルな話題を聞くのが好きだから、やがて会話も盛り上がる。宴たけなわとなった頃、その怖いオヤジが突然言い出した。「俺はこれからチョイと用事だ。何もない町だが、この先に1軒だけストリップ小屋がある。○○という俺の名を出せばただで入れる。まぁ20〜30分楽しんでいきなよ」
男は、この町でのせめてもの「歓待」といわんばかりに、そう言い残して立ち去った。ストリップ…。う〜む、趣味ではないが、まぁ嫌いな方じゃない。で、くだんのストリップ小屋に行き、半信半疑でその怖いオヤジの名前を出してみた。するとそこの支配人、その名を聞いただけで恐れおののいたように一番前の“特等席”に案内してくれるではないか。はからずも○○氏がこの町を牛耳る実力者であることが実証された感じだ。
出し物が終わって、支配人、「お楽しみになれましたか?」などと、機嫌を伺うように尋ねてくる。「ええ十分に…。○○氏によろしくお伝えください」。すると支配人、「それなら直接挨拶に行かれたらどうですか? すぐ近くですから」…と、怖いオヤジの事務所に行けという。
「やっぱり“ただほど怖いものはない”の例え通りかよ…」と若干ひるんだが、こうなりゃ挨拶に行かねばならない。
で、支配人に教えられた場所にたどり着くと、先ほどの○○氏。なんと向こうからこちらを見つけて、笑顔で敬礼している。「本官の案内はお気に召しましたでしょうか?」。言葉使いもガラリと違う。鋭い目つきは相変わらずだが、角刈り頭の上には警察官の帽子が乗っているではないか。町で唯一の駐在所だという。「確かキャンピングカーの旅とおっしゃいましたね。今日は駐車場でお泊まりですか? 気をつけて旅を続けてください」「はぁ、ありがとうございます…」。
なんだかキツネにつままれたような気分のまま、今宵もバンクで独り寝。キャンピングカーの旅は、だから面白い。

