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今日もバンクで独り寝


vol.001
Pキャン中のあやしい来客
vol.002
キャンピングカーでの古城・古戦場巡り
vol.003
窮地に陥って自然の美しさを知る
vol.004
温泉街の美女
vol.005
居酒屋アクシデント
vol.006
情けなさの極みとは
vol.007
クマ出没注意
vol.008
ああ、旅情!
vol.009
クッキーとの旅
vol.010
混浴温泉の夜はふけて
vol.011
今日も床に独り寝
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三橋美智也の歌に包まれて眠る

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編集長町田厚成の今日もバンクで独り寝

● vol.011 今日も床に独り寝

しばらくこの連載エッセイが更新できなかったのは、(もちろんサボっていたせいであるのだが)タイトルに銘打った“独り寝”という状況をだんだん享受できなくなってきたからだ。わが家のカミさんがバンクを独占するようになったからである。

取材にキャンピングカーを使っていた当初の頃はひとり旅が多かったので、当然バンクは私専用の就寝スペースだった。

ところが最近は、取材だろうが旅行だろうが、おかまいなくカミさんが付いてくるようになった。子育てから解放された彼女は、ひとりで取材に出かける私に対して急に温情心が芽生えたらしい。

「ひとり旅はさびしいでしょ」というありがたい気配りなのであるが、1台のクルマを2人で使うことになれば、当然それぞれにお気に入りの場所というのが生まれてくる。それがかち合った場合は、日頃の力関係によって決まる。わが家の序列は、カミさん、犬、旦那という順に階層化されているので、最下層に位置する私などは、犬が寝場所を決めた後に、やっと自分の寝床を確保するという悲哀を味わうことになる。当然、クルマの中でもしもじもを見おろせる特権的なバンクは、女王様だけの寝床となる。

このバンクの神聖化はその後ますます強化され、今では、私がひとり旅をしているときも使用する許可がおりなくなってしまった。理由は「臭くなる」からだ。

私は、特に毎日シャンプーをしているわけではない。自分で「汚れたかな…」と感じるときに洗髪するという、ごく自然なサイクルでシャンプーしているのだが、カミさんが密かに観察するところによると、1週間〜2週間は髪を洗わないまま平然としているのだそうだ。そんな馬鹿な…と自分では思うのだが、いつシャンプシーしたかを自分でも思い出せないくらい自然体の生活を送っているので、その指摘に反論することができない。

さらに彼女は、水虫にかかっている疑いの濃い者と同じベッドボードを共有することはできないともいう。私の場合は、水虫を罹患する年が隔年と決まっており、足裏が清潔な状態を1年おきにしっかり更新しているのだが、そういう細かい現状認識を持つことを彼女は不得手としているようなのである。

頭を洗っていないことと水虫という、日常生活にはほとんど支障のない小さなことを二つだけ取りあげ、そういう不潔な人間に神聖なバンクは渡せないと、女王様はのたまうわけである。

なにしろ女王様は、いろいろな物事に対して、誰はばかることなく自分の思うことを平然と発言するのが得意だ。たとえばキャンピングカーを選ぶときも、「トラック顔は絶対いや!」と、キャンピングカージャーナリストの妻にあるまじき暴言をあっけらかんと言ってのける。キャブオーバー型のキャブコンを指しているわけだが、「あれはスペース効率に無駄がなく、居住性を考えれば、ボンネットなどが出ているキャンパーよりも室内を有効に使える」といくら説明しても、「そういうのを屁理屈というのだ」とおごそかに反論してくる。

それでいて、「就寝時には、ダイネットをそのままにした状態で寝られるクルマが良いクルマだ」などと、したり顔で解説してくれることもある。自分でダイネットテーブルなど片付けたこともなく、眠くなればさっさとバンクに登ってしまう女王様が、どこでそのような庶民感覚を身につけたかは今もって深い謎である。

なにしろ、天下泰平の世を謳歌するがごとくのおおらかさが、女王様の持ち味である。 最初に買ったボンネット型のキャブコンに初めて乗ったときも、助手席に座った女王様は、開口一番「このクルマ故障しているかも!」と鋭い指摘を行った。日頃乗っているクルマに比べ車体の揺れも大きいし、エンジン音も異常に高い。点検が必要かもしれないとのご託宣であった。 「そうかなぁ…」という思いでしばらく話を聞いていたが、やがて彼女がディーゼル車に初めて乗ったということが判明した。確かにガソリン車と比較すれば、当時のディーゼルトラックはうるさかった。しかし、それを「故障」とまで感じるほどの鋭敏な感受性に対し、私は唖然とするよりも感動を覚えた。

ある販売店で展示車を見ていたとき、「素敵なディスプレイのクルマがある!」と女王様が跳んできたので、一緒に見ることになった。展示車のある方向に歩きながら、彼女がうきうきと語り出す。カーテンの色も洒落れているし、ベッドに敷いてあった布団の柄もよい。床にあったスリッパの趣味も品がよく、さりげなく飾ってある子供の服も、内装色とのコンビネーションを意識しているとか。

そこまで聞いて、「……???」となった。

案の定、それは展示車ではなく、その展示場に見学に来ていたユーザーのクルマだった。どうやら勝手に上がり込んで、シャワー室はおろか冷蔵庫の中までしっかり見学したらしい。

天衣無縫、唯我独尊という言葉は彼女のためにあるようだ。そういう彼女が、人からは「万事ものごとに控え目で、しとやかで、気配り上手」と評価されているのが解せない。世界の7不思議というのが今でもあるのなら、個人的には、それを入れて8不思議にしたいくらいだ。少なくともキャンピングカーに乗っている限りは、彼女は、忠実な番犬とそれ以上に忠実な下僕にかしずかれて、悠然と振るまっている女王様である。

「今日もバンクで独り寝」というタイトルも、しばらく使えそうもない。今ではダイネットベッドも犬に占領され、ヘタをすると「今日も床に独り寝」にならざるをえないような状況に近づきつつあるからである。