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■ サムライ列伝 ■


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サムライ列伝

● vol.002 マックレー取締役 渡辺秀樹さん 55才

たとえ最終的に購買に結びつかなくても、いくつか候補車が並んだときに必ず候補の一つに上がってくる車種というのが、どんなジャンルにでもある。キャブコンの場合、マックレーのデイブレイクがそれにあたるのではないだろうか。大メーカーのクルマではない。派手な広告宣伝が展開されているわけではない。しかしキャブコン・ファンの注目度は非常に高い。何人かのキャブコンユーザーが集まる機会に参加すると、このクルマが話題の核となるという場を個人的にも幾度か経験している。

はっきりいえば、“無骨”なクルマである。スタイルを優先したクルマにありがちな華やかな印象はない。しかしこのクルマからは「これを買えば幸せになりそう」という強烈な予感が伝わってくる。レイアウトを見ても、装備一つ吟味しても、ものすごく繊細な思いが込められていることが分かる。ストレートに言い切ってしまえば「商売から来た発想」ではない。それよりも、このクルマを一番欲しがっていたのは開発者自身なんだ…と思わせるある種の切実感が企画の根底に漂っている。その切実感はどこから来るのか。実は、開発者渡辺さんの人にいえない一つの苦労がそこに集約されていたのだ。

デイブレイクの特徴とは何か。一つは、LPガスを廃して発電機主体のエネルギー確保を謳ったことだろう。もう一つの特徴は、5m×2mという標準的なキャブコンサイズに、完璧な2ダイネットを効率よく実現したところにある。中央に対座型ダイネットを持つのは一般的スタイルだが、なんとリヤにも若干小振りな対座型ダイネットが用意されている。デイブレイクはブリテンもマークスも10人乗車だから、2家族が1台で旅行することも可能であり、その時はそれぞれの家族が独立したダイネットでくつろげる…という意図を読むことも可能である。事実そういう使い方もできる。

しかしこのダブルダイネットという発想は、渡辺さん一家の個人的な事情から生まれてきたものだった。ご長男がダウン症児だったのである。感受性も明敏で、性格も優しいご長男だが、健常者の子供のような日常生活がこなせない。人一倍家族愛の強い渡辺さんのことだから、ご長男を伴っていろいろな行楽地にも連れていってやりたいと思う。しかし観光地を回っていても、ホテルに泊まっても、障害を持つ家族がいるとなかなか手が離せないし、目も離せない。家族がいつも一緒に付き添えるキャンピングカーがあればそういう問題も解決するのだが、渡辺さんのニーズを満たすキャンピングカーは、当時市販されたものの中にはなかった。

渡辺さんは、自分の求めている理想のキャンピングカーをデイブレイクで実現した。ご長男を連れて、遠い旅に出る。優しい家族に伴われ、1日の楽しい行楽を終えたご長男がフロントダイネットをベッドに変えて眠りにつく。「その時が、やっと私たち夫婦に訪れる至福の時間なんですわ」と渡辺さん。障害者のケアは経験したものでなければ分からない。しかしその経験を分かち合うことで夫婦の絆もさらに深く結ばれる。スヤスヤと満足そうな寝息を立てる息子さんの姿を見守りながら、夫婦は今日1日の楽しかった思い出を語り、そしてケアに費やしたお互いの労力をねぎらう。息子さんが、今度の旅をどれだけ楽しんでくれたか。それを夫婦で語らう貴重な場が、あのリヤダイネットだったのだ。そこでささやかな酒宴を張り、眠気を催したらバンクへ。それが渡辺さん一家のキャンピングカーライフであった。

「あまり他人に話したことはなかったのですが…」と、名古屋市内の居酒屋で話してくれた渡辺さんの目は少々潤んでいた。「あの子がいたから、私の今の商売もあるんです。こういう仕事に携われた私は本当にしあわせ者ですが、そのしあわせはすべてあの子が与えてくれたものなんです」。

ダウン症児は「天使」だとよく言われる。健常者がともすれば失いがちな汚れを知らない純粋な心、みずみずしい感性。成長してもそれを損なわないのがダウン症児の特徴だ。そして、それに触れることによって渡辺さんは常に「人間にとって本当に必要なもの」を教えられてきたと言う。マイナスをプラスに考える逞しさと優しさ。それを身につけた渡辺さんは、まさに「サムライ」の一人だ。デイブレイクというクルマが、キャブコンに注目した人を捉えて離さないのは、そこに「人間にとって本当に必要なものは何か」という切実な問いがあるからに違いない。(町田)

マックレー 京都府京都市北区紫竹西高縄町115 TEL.075-493-6005