サムライ列伝
● vol.003 ファーストカスタム 代表 佐藤和秋さん
自動車工学の“鬼”
10年前、秋田の片田舎にある小さなバンコンメーカーだったファーストカスタム。それが、今グランドロイヤルのような日本の最高峰を極める高級キャブコンを開発するビルダーに急成長した。現在、その技術開発力は日本でトップクラスといえるだけでなく、世界的な水準においても、トップレンジに君臨しているといわざるを得ない。日本のキャンピングカー技術の“けん引車”ともいえるファーストカスタムの土台を築いた人、それが社長の佐藤和秋氏である。若い。42歳。イベントなどの会場で、自社製品の回りに集まるお客さん相手に、熱っぽくその特徴を語っている人。顔を見れば、「ああ、あの人ね…」と分かる方も多いはず。話す内容はキャンピングカーの装備や構造にとどまらない。もっと高度な自動車工学、材料力学、流体力学、基礎物理学など、工学系すべての分野に対して専門的な知見を披露する。話だけ聞いていると、小さい頃から秀才で、アカデミックな分野を極めた青白きインテリという雰囲気だが、風貌から察すると、やはりどう見ても乱世を切り開いてきた「サムライ」のご面相である。それもそのはず。かつてはミュージシャンを目指し、高校を飛び出してサックス片手に東京でバンドマンをやっていたという破天荒な経歴の持ち主である(…ということを『オートキャンパー誌』で告白している)。キャンピングカーのセルシオ
佐藤氏の開発したグランドロイヤルは、マスコミからも業界からも「キャンピングカーのセルシオ」と呼ばれている。かつてなかった流麗なフォルム。恐るべき精度を誇るフィニッシュワーク。一目見ただけで、その完成度の高さは誰にも分かるものだが、凄いのはその「表面」に現れない中身だ。転倒してもほぼその原型を保つといわれるスペースフレームを骨材としたボディ設計。最も厳しい乗用車の基準にもしっかり適合するキャプテンシートのマウント工法。厳密な計算に基づいてオリジナル開発された高性能なコイルスプリング。キャンピングカーである以前に、まず「乗用車」としての安全性、走行安定性、快適性にこれほどこだわったクルマはかつては存在しなかった。
「僕はこのクルマをキャンピングカーとしては考えていません」と佐藤氏は言い切る。「ヨーロッパには“ライザモービル(旅行車)”という言葉がありますが、目指したのはそれです。家族がキャンプに使うというより、個人がくつろぎながら旅するクルマ。あくまでもこれは“ホーム”である前に、プライベートな自分だけの“ルーム”です。家族全員がくつろぐならば妥協も必要でしょうが、個人だけの充足を目指すのなら妥協は許されない」…という佐藤氏の強いこだわりで、グランドロイヤルは開発された。仕事が終わってからの深夜の独学
洗練された室内造形のノウハウなら、すでにバンコンのロイヤルJ、グランビアポップで確立されている。このグランドロイヤルで重要視されたのは、その卓越したグランドハイエースのシャシー性能に見合ったボディ設計だ。モノコックボディを切断して、新たにシェルを架装するというのは、その安全性などを真剣に考えれば決して簡単なことではない。乗用車を新たに一から設計し直さなければならないほどの膨大な計算とデータが要求される。そのためには本格的な自動車工学の専門知識がどうしても必要となってくる。
「僕の場合は、ほとんど独学です」と、佐藤氏はいう。「通信教育を頼りに、毎晩仕事が終わって、夜中の2時、3時まで必死に勉強しましたね。そうしなければ、安全基準などを真面目にクリアできる本当のキャンピングカーはできない。それができなければ、キャンピングカー産業の未来はない。それぐらいの気分でいました」。幸い個人的にも良い師に恵まれた。お茶の水女子大の講師をしていた実姉の知り合いで東大工学部に在籍し、元運輸省の航空技術研究所でも活躍して退職した教授が、佐藤氏に電話とファックスを使った深夜の「工学塾」を開いてくれた。「僕はその人から、構造物の基礎理論や材料力学を教えてもらいました。そして自動車の弱い部分が、なぜ弱いのか? ということをシステマティックに理解するようになりましたね」
そういう努力を積み重ねて、今やトヨタなどの乗用車メーカーのトップエンジニアたちからも一目置かれる存在となっている佐藤氏。そういう人が、このキャンピングカー業界を支えてくれていると思うと、実に頼もしい気がする。
ファーストカスタム本社
秋田県平鹿市平鹿町樽見内字古館154-2
TEL.0184-24-3307
展示場(キャンピングカーランドファースト)
秋田県大曲市高関上郷字高屋敷81
TEL.0187-62-8328
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