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■ サムライ列伝 ■


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サムライ列伝

● vol.004 アイシィー・トレックス 代表 戸川 聡さん

こだわる男のこだわりのモーターホーム


シャネルのココ・シャネルやフェラーリのエンツォ・フェラーリのように、その創業者の伝説が燦然とした光芒を放つ商品は不滅である。日本のキャンピングカー業界で、今そのように個人がブランドそのものとして機能しているような人を挙げるとすれば、このアイシィー・トレックスの戸川聡会長をおいて他にはいまい。輸入モーターホームで最も人気あるブランドのひとつB.C.ヴァーノンを語るには、まずそのコンセプトメイクを行った戸川さんを語らずしては始まらないところがある。

キャンピングカーの世界には完成形というものが存在しない。特にモーターホームは、微細なところのクオリティアップを図れば、そこでさらにひとつ新しい不具合が生じてしまうような、微妙なバランスの上に乗った商品だ。それをひとつひとつ潰してより良い商品を目指していくためには、努力と経験と情熱と、そして“常軌を逸する”ほどのこだわりが必要となってくる。その「こだわり」の部分に関して、まず戸川さんのような徹底性を発揮する人は他にいまい。そこが、B.C.ヴァーノンというクラスCの信頼性につながり、ひいてはそれがブランドとしての力になっている。

家出の常習犯として、放校処分された高校時代


戸川さんのこだわりは、どこから生まれてきたのか? それを明かす前に、まず戸川さんがモーターホームという乗り物にどんな世界観を込めていたのか、それを説明しなければなるまい。

モーターホームとは、簡単にいってしまえば寝て、食べて、くつろぎながら旅を続けていくためのツールだが、その根底には会社や学校といった日常性から解放され、好きな場所で好きな生活を満喫するという「自由な時間と自由な空間」を獲得する手段という性格がある。いわば「さすらい」に価値を認めたクルマだ。そんな乗り物に若い頃から強い憧れを抱き続けていた戸川さん。実は、ご本人が「さすらいの人」だったのだ。

決められた場所に決められた時間だけじっと拘束されることが苦手だった中学・高校時代。戸川さんはすでに「家出」の常習犯だった。アウトドアの開放感を人に訴える力がその頃からあったのか、戸川さんの家出にはどんどん賛同者が追従する。クラスメイトやよそのクラスの生徒まで巻き込んだ集団家出が繰り返され、その首謀者としての戸川さんはついに放校処分。心機一転、新しく入学した高校では、今度は仲間の学生バンドをマネッジメントして、夜のライブスポットを転々と渡り歩く毎日。

音楽一家の血を受け継ぎ、声楽ではプロ級。得意はカンツォーネ。その力量を活かし、音楽事務所に所属して、九州から北海道までくまなく巡業する。司会兼歌手業という形で活躍するも、持ち前のきままさが仇となり27歳で歌手業を辞める。以降、英語の百科事典の販売、バーテンダー、有線放送の営業、クルマのセールスなどありとあらゆる職種を経験。住所も職業も有為転変。人生は七転び八起き。文字どおり「さすらい」の前半生を送った戸川さんだが、心に刻んでいた理想は一貫していた。19歳の時に見た西部劇の『シェーン』。そのラストシーンに映し出されたワイオミング州の風景。彼方の山を目指して主人公シェーンが去っていく。その光景が、戸川さんの心の原風景となる。それは「さすらい」を続けながらも、最終的には確固たる理想を実現するための勇気を与えてくれるものだった。戸川さんは、シェーンが目指していったワイオミングの崇高な山のイメージに、苦しいとき、迷ったときにいつも助けを求めた。

シェーンの舞台でモーターホームと出合う


そして33歳。当時在籍していた会社で、書籍販売における全国ナンバー2セールスの地位を獲得した戸川さんは、会社からのご褒美という形でアメリカ旅行を贈られる。

憧れの『シェーン』のロケ地に足を伸ばしたとき、そこで自分の後半生を託すモーターホームという存在に出合う。その地で知人のモーターホームに寝泊まりし、窓から映画と変わらぬ風景を眺め、戸川さんは自分の「さすらい」が何を求めていたものだったか、はっきりと自覚する。その時からモーターホームとは、戸川さんにとって自由に生きたいという夢を育むものであると同時に、その具体的な手段を約束するツールとなった。

以降戸川さんの生活は、そのモーターホームを日本に定着させることを目標とするものに変わった。キャンプ用品やアウトドア用品、さらにキャンピングカー改造パーツの販売などに手を染め、次はモーターホームを使ったキャンピングツァーのコーディネート。そして三菱自動車やトーメンといった、当時輸入モーターホームの国内販売を手掛けていた商社の顧問を歴任。モーターホーム事業が着々と戸川さんの仕事の中心になっていく。この間、様々な現地ビルダーやディーラーの人々と知り合い、海外スタッフを通じて本場モーターホームの膨大な知識が戸川さんの頭脳に吸収されていく。

1992年モーターホーム販売会社のアイシィー・トレックス設立。1993年の暮れ。自分が長年温めていた構想を実現した画期的なモーターホームB.C.ヴァーノンのプロトタイプが、ついにカナダのレジャーコーチワークス社の協力によって完成する。取り回しの良いナローボディ。徹底した断熱・防寒対策。大容量のラゲージスペース。驚異の水タンク容量。B.C.ヴァーノンは、当時国内販売されていた輸入モーターホームの常識を破るものだった。なぜなら、それは日本で始めて国内市場のニーズを真剣に反映した画期的モデルだったからだ。

こだわりを持った商品だけが生き残る


戸川さんの「こだわり」に関しての話に戻ろう。

戸川さんがそのヴァーノンに行き着くまでにセールスした商品は、1,000品目以上挙げられる。小物はキャンプ用品から大きなものは乗用車まで。さらに有線放送、キャンプツァーなど「物」以外の商品を入れればいったいいくつになるのか、ご本人も分からない。その豊富なセールスの体験から得た答えはひとつ。長く残る商品は、例外なく開発者が「真剣に考え抜いたもの」。いい加減な物が残った試しがない。戸川さんは長年のセールス経験で、商品のクオリティが「こだわり」によって支えられていることを発見する。そしてそれが、結果として「ブランド」として残るという秘密も見抜く。

モーターホームの仕事に携わってから15年。キャンプ用品、RVパーツの販売から数えると25年。四半世紀におよぶ戸川さんの活躍ぶりは、すでに多くのマスコミが取り上げるところだ。輸入モーターホームの知識や開発力に関して日本で第一人者であることは、読者の方が詳しいに違いない。

現在65歳。80歳までは現役としてモーターホームに関わり、日本でモーターホーム文化が根づいていく様子を見守っていきたいという。モーターホームに一生を捧げる男の一代記。いやぁ、あっぱれな「サムライ」ではございませんか。 (町田)

アイシィー・トレックス
東京都町田市成瀬ヶ丘1-28-2
TEL.042-799-0461
ACCESS:東名横浜町田ICから国道16号を右折して国道246号に入り、つくし野の信号を左折、アイホップレストランを右折。右側にある紳士服青木の裏。