サムライ列伝
● vol.006 フィールドライフ代表 福島雅邦さん
サムライは孤独だ!
「サムライ」という言葉から、人は何を連想するだろうか。気骨。正義感。筋を通す。…そんな言葉が浮かび上がってくるかもしれない。しかし大事なポイントがひとつある。サムライは孤独だっていうことだ。人間関係に背を向けるという意味ではない。前人未到の分野に独りで挑戦していくという意味だ。誰も踏み込んだことのない世界に足を踏み入れる。それは、手本にしたり模倣したりするものが全くない状態からスタートし、その結果が出るまでは誰も評価してはくれないことを意味する。失敗したら笑われるどころか、見向きもされないかもしれない。キャンピングカーの世界で、そんな孤独感の重圧に耐えながら、誰もやらなかった世界を独りで切り開いたサムライといえば、この人しかいない。
フィールドライフの福島さんだ。
フィールドライフといえば、プラッツという日本初のフルコンバージョンを完成させ、その開発力と技術力で、今では知らない人間が誰もいないほどの有名なメーカーだが、そもそもフルコンにチャレンジするということ自体が、日本では前人未踏のジャングルを切り開くような作業といってよい。フルコンとは、プラットフォームのフレームから組んで床を仕上げ、フロントマスクからインパネまで、すべてビルダーが製作に関わるクルマのことで、既成車両に架装を施す一般のキャンピングカーとは一線を画する。いってしまえば自動車を丸々1台造り上げるようなもので、こればかりは相当ハイレベルの企画力と開発力がなければやり通せない。完成したプラッツは、確かに「わが国初のフルコンバージョン」とマスコミからもユーザーからも好評のうちに迎え入れられたが、それは結果を見ただけの評価。日本に類例のないものを造るという開発前の孤独な格闘は、福島さんの胸の内だけにとどめられている。もちろん成功したのは、優秀なスタッフにも恵まれたせいだろうが、それだけに失敗すれば、そのスタッフ達にGOを出した経営者としての責任も重くのしかかったことだろう。
誰もやらない世界への挑戦
板金・塗装やクルマの修理などを始めてから30年。キャンピングカーの製作に携わるようになって16年。フィールドライフを立ち上げて11年。日本のキャンピングカー史とともに歩いてきたような福島さん。最初のオリジナルキャンパーも、これまた前例のない軽自動車をベースにしたトライキャンパーだった。「輸入モーターホームや大型バスコン、キャブコンこそがキャンピングカー!」という風潮の中で、軽ベースのキャンパーは“ままごと”のように思われることもあった。しかし、その豊富なアイデアに裏打ちされた実用的なつくりは、軽ベースでこそ可能になる新しいキャンプライフを提案することになった。
最近作は、ヒュンダイのSRXトラックをベースにしたフランク。これまた、開口部の大きなリヤゲートを設け、遊びのギヤを積み込む広大なラゲージスペースを設定したキャブコンという、いかにもフィールドライフらしい企画を盛り込んだもの。
「ウチみたいな後発メーカーは、ヨソがやらないようなものを発表しないかぎり注目を集めないからね」と、福島さんはあっけらかんと笑うが、その軽やかな発言の裏に、ヨソがやらない分野で孤独な戦いを勝ち抜いて行くんだという骨太の決意と自信が潜んでいる。
豪放磊落な表の顔と、繊細な感受性
一見、豪放磊落(ごうほうらいらく)。しゃべる言葉は時としてベランメェ調。真面目な話の中にもジョークが随所に顔を出す。福島さんの第一印象からは、誰もが大胆でサバサバしたキャラクターを思い浮かべるだろう。しかし、ズバズバと言い切る発言の裏には、常に時代や社会や経済の動向に対する慎重な分析があり、相手の気持ちを気遣う細やかさがある。「不況の時代は、経営者のような目でものを眺められる社員を持たない会社は潰れていくしかない」というシビアな発想を持つ社長であるからして、社員にとっては厳しい経営者かもしれない。しかし、その社員に対して「自分たちのやっていることが素晴らしいことなんだという自信を持たせるために」プラッツの製作に携わらせ、「自分たちで好きなようにアイデアを出せ」と、社員の自主性を尊重する形で、今回のフランクができた。経営者として、社員のモチベーションを高める力は相当にありそうと読めた。
夢はシルクロード
キャンピングカーは何のためにあるか? バブルの時代から大型バスコンやキャブコンの開発にも関わってきた福島さんは、いろいろなキャンピングカーをつくり、かつ周囲のクルマを見てきた。豪華な装備を自慢するためだけに、高価なキャンピングカーを買う層も知っている。
しかし開発したクルマを自分で使ってみて、自分でその出来映えを検証してきた福島さんには、ひとつの結論がある。
それは「キャンピングカーとは自分の心が解放される場所と時間を見つけるための道具」だということ。有名な観光地を回り、人気のある温泉に行くだけがすべてではない。名もないような河原に止め、1日中雲の流れを眺めたり、本を読んだりする時間をつくる。何もないような自然のなかで、自分だけの楽しみを発見する。要は、自分の心の豊かさだけが頼りとなる旅。それをサポートする道具がキャンピングカーだというわけだ。したがって、ユーザーにそういう心の充実感を喚起するイマジネーションを秘めたキャンピングカーこそ、本物のキャンピングカーだということになる。
究極の目標がある。
それは「プラッツでシルクロードを走破すること」。
福島さんから、宴会の席などでそう持ち出されると、誰もが「わぁ、僕も連れていってください!」と、その席上は簡単に盛り上がる。しかし、その瞬間に「こいつ、本当に水も食料もない荒野を旅する根性があるのだろうか?」という、福島さんのシビアな観察眼に、同調した人間は試されることになる。いくらプラッツが完全無欠な居住空間を保証したクルマとはいえ、シルクロードを旅するのは、宴会のノリの延長線では実現しない。
言葉は? 燃料は? 食料の補給は? メンテナンスの用意は? ビザやパスポートは? 現地の案内人は? さらに紛争の耐えない地点を通過するための安全性の確保は? 現実に事を進めるには、あらゆる困難を想定しなければならない。
しかし、このサムライは本気でそれを計画している。前人未到の世界への孤独なチャレンジを続けてきた男に、シルクロードの走破もまたひとつの通過点に過ぎないのかもしれない。(町田)
フィールドライフ
群馬県渋川市中村755-1
0279-22-4841
http://www.fieldlife.co.jp/

